天皇陛下即位に関する豆知識

 

天皇の即位に神璽の継承の儀礼。三種の神器。どうして皇室の皇位継承が嫡子または男系なのか。どうして大嘗祭を行うのか。これらは皇位継承では重要な事柄である。実は、神話に由来する。合理主義では、神話を否定するが、アメリカでも、大統領の就任儀礼では、聖書に手をおいて宣誓する。どうしてなのか。ローマにバチカンがどうして存在するのか。皆、宗教的な精神的背景があるからである。神話を持たない民族はない(篠田・丸山編『世界神話伝説大事典』勉誠出版参照)日本における仏教でも、観音信仰は広く深いが、法華経から来ている。長谷寺の観音も、法華経が典拠である。

 

どこの神話でもそうであるが、天界の聖地に神々の起源がある。キリストは亡くなった後、天から降り再生した。そして人々を救済する存在となる。天は聖なる世界の根源である。南太平洋では、川の底が聖地だという国もある。さて、三種の神器で大切な草薙の劍は現在7本知られているが、その内の1本は、出雲のヤマタノオロチの尻尾から出現したもので、スサノヲがそれを高天原の天照大御神に献上した。それを天照大御神の孫であるホノニニギが天から日本に降る時に携行させた一つが、草薙の劍である。それは皇位のレガリアとして携行させた霊的な存在である。

 

 

なぜ皇位は男系嫡子が継承か。記紀によれば、皇祖神天照、あるいはオオヒルメムチには、5人の男児がいた。長男は、アメノオシミミ、次男は、アメノホヒ、三男は、アマツヒコネ、四男は、イクツヒコネ、五男は、クマノクスヒである。そして長男のアメノホヒの子供が、ホノニニギである。つまりニニギは、天照大御神の嫡男オシホミミの子供である。アマテラスの孫、天孫である。この天孫が古事記によれば、初めは五伴緒と三種の神宝と、三人の神を従えて、伊勢に降る。そして再び、大伴と久米を従え、聖なる弓矢を伴い、高千穂の峰に降臨する。これが古事記神話である。嫡子が皇位を継承するのは、これに由来している。

 

 

皇位継承にともなう大嘗祭は、様々な聖なる儀式の中でも重要な儀式の一つで、天皇陛下が神様に新穀をささげ、また神様とともに食するという新嘗と同じ儀礼を行う。神とともに同じものを食される重要な儀礼である。私が思うに、共に食するのは、我々でも重要な家族の営みであり、夫婦が初めて三々九度の杯を交わすのも、酒に込められた同じ穀魂を二人が共に戴くという重要なことである。夫婦の結びつきは魂の結びつきを意味する。霊的な行為である。天皇陛下と神様が同じ食べ物を食されるのは、霊的な聖なる行為である。

 

 

日本古代の「統治」「支配」は、武力ではなかった。「知らしめす」「見そなわす」「聞こしめす」「食す」「召す」「座す」である。「知る」「見る」「聞く」「着る」「食う」「飲む」「居る」「呼ぶ」の尊敬語である。これが日本の統治や支配の論理である。相手の話を良く聞く、一緒にものを食う、酒を飲む、などの行為を通して、相手のことを良く知ろうとする、これが大国主から国を譲られた古代大和代王家の支配の論理であった(鈴鹿千代乃『古代からの風』(日本国語国学研究所刊)から。

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新元号「令和」に寄せて

「令」と言う字は、命令の令とか、律令格式などのイメージが強いが、一方、令息、令嬢など、立派、麗しいなどのイメージがある。一見、両方の意味が離れている様であるが、もともとは同じ意味の言葉である。白川静先生によれば「令」は、礼冠を着けて跪いて神意を聞く神識のものの形と説明している。これを現代風に解釈すれば、神威を受けることであるから、大切な良いことを意味した言葉が、語源である。ということで、令息や令嬢と言う言葉が出来たと考えられる。「和」(わ)は、輪と同じで、まるいもの、なごやかなものである。聖徳太子の17条憲法にもある。日本人が大切にしてきた「言葉・心・事」である。禅宗でも、白隠禅師の「円相」が有名で、花園大学の教堂のご本尊でもあるが、円は日本人が長年培ってきた心である。嬉しい元号を作って戴き皆で喜びたいと思う。言葉は、長い歴史の中で、時代の風雪の中で、いろいろな解釈を生み出すが、元の意味から眺めてみるのは、「令和」の年号の成立で、改めて考え直すいい機会のような気がする。

「令和」の典拠は、『万葉集』巻第五の「梅花の歌三十二首」の序文である。天平2年正月13日に、太宰師大伴旅人の邸宅に集まって宴会を開いた時に、作られたとされる和歌32首の漢文の序に見える言葉である。この時の歌は、「梅花の宴」として有名な歌であり、年号に併せて、万葉集の歌を楽しみたいものである。歌の作られたところは、おそらく大宰府と考えられる。万葉集の梅の歌は、119首ある。桜の歌は41例である。「梅は咲いたか桜はまだかいな、山吹は浮気で・・・」という江戸時代の歌謡にまで歌われた日本人の大好きな花である。